徹夏コンテンツが少なすぎのまま2010年は終わってしまったので、せめてお正月は‥!
というわけで、2夜連続であけおめssを投下します☆
台所には大桶に盛られた酢飯が湯気を立て、甘く煮られた油揚げの香ばしい香りが漂っている。
「‥こんなに作ってどうするの」
次々と油揚げに寿司飯を詰めている小出梓に向かって、夏野は半ば呆れた表情で問うた。
見ると、食卓の上には、稲荷寿司だけでなく、黒豆や数の子、昆布巻きなども大量に並べられている。どう考えても、家族3人分の量とは思えない。
「あぁ、これね。武藤さんとこにも持って行ってあげようと思って」
「武藤に?」
「うん。ほら、お母さんの方もパートを始めたらしいじゃない?両親とも年末まで仕事で忙しいみたいだし」
武藤の家では最近、母親もパートを始めるようになって、その仕事が年末も忙しいらしかった。班が同じこともあり、尾崎医院で医療事務をやっている武藤と、夏野の父親は、越してきた頃から親しくしていたから、そのへんの情報もすぐに入ってくる。
村特有の連帯感だとか、近所付き合いだとか、そういったものに両親が憧れを抱いていることが、夏野にとっては面白くないが、そういうのが(お節をお裾分けして届けるような行為が)武藤との間に成り立つことであるのなら、夏野も反対や嫌悪感を抱くこともない。
――なぜなら、それが、武藤だからだ。
「お重、棚にあるから、料理を詰めてくれる?一つしかないから‥ウチ用のはお皿でいいでしょう?」
「あぁ」
鼻歌交じりに作業をしながら、小出が言う。夏野はぶっきらぼうに答えながらも、いそいそと重箱を取り出して料理を詰め始めた。
大桶が空になると、小出は、正月飾りを作る手伝いをするからと工房へ引っ込んだ。「詰めたら武藤さんに届けに行ってね」と言い残して。
夏野はひととおり料理を詰め終わり、敷き詰めた稲荷寿司をじっと見つめた。そうして、少し悩んでから、その中の一つを取り出して、空になった大桶に中身をぱらぱらとこぼした。
「こんにちはー」
玄関の前で声を上げると、薄い扉の向こうから、「夏野だ」「ナツだ」と沸く声が聞こえる。それでも誰もなかなか出てこなくて、暫く立ってから、もこもこの半纏でしっかり防寒した徹が、掌を擦りあわせながら顔を出した。
「よう、夏野。寒いだろ?中入れよ」
ひょろりとした長身に、年の瀬の寒さは堪えるようで、夏野を気遣うように家の中に招き入れた徹の方が、扉を閉めてほっとしたような顔をしていた。
「上がってくか?‥こたつでミカン、どう?」
「いいよ、今日は。蒼も保っちゃんもいるだろ?‥みんなで団欒してるの、邪魔する気ないし」
居間から聞こえてくる笑い声を避けるように、夏野は視線を逸らした。少し拗ねたように口を尖らせている夏野を見て、「あー‥」と、徹は得心した様子で頷いた。
「邪魔するっつーか、邪魔されたくない、ってのが、本心か」
「ばっ‥!」
「いーっていーって。分かってるからよ。夏野はみんなといるより俺とふたりの方が落ち着くんだよなー。じゃあ今度、ふたりっきりでこたつミカンしような」
「徹ちゃんのバカ。‥からかうなよ」
「はいはい」
徹は夏野の頭をくしゃっと撫でた。くすぐったいような、恥ずかしいような甘酸っぱい感覚が夏野の胸を掠めて、なんだか顔が熱くなる。徹に乱された髪の隙間から覗く耳が、真っ赤に染まっていた。
「き、今日は‥これ、届けにきただけだから」
「‥お節?」
「母親が、持ってけって」
腕をまっすぐに突き出して、「ん」と無愛想に差し出された重箱を、徹は眺めた。そうして、いつも通りの柔らかな笑みを浮かべて、そっとそれを受け取る。
「ありがとうって、梓さんにも伝えておいて。‥夏野も、わざわざ届けてくれてありがとうな」
「別に‥」
クスリ、と徹が笑う。
そうしてもう一度、夏野の頭がわしゃわしゃと撫でられた。
夏野はぶんぶん首を振って、徹の手を払いのけると、
「稲荷寿司‥いっこだけ形悪いの、徹ちゃんのな」
俯いたまま言って、逃げるように走り去っていった。
まずは大晦日のおはなしをうpりました!
次はお正月のおはなしを書きます^^お楽しみに☆
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